100年時代の「お口の健康」を考える「オーラル未来会議」
~ライオン歯科衛生研究所が60周年記念の特別セミナーを開催~
2024.11.25
2024年10月27日、公益財団法人ライオン歯科衛生研究所の財団設立60周年記念セミナー「オーラル未来会議」が、JPタワー ホール&カンファレンス(東京・丸の内)で開催されました。
人生100年時代に向け、各分野の専門家がお口と身体の健康の在り方について、活発に意見を交わしました。ディスカッションの様子はオンラインでも配信され、セミナーに参加した歯科医師や歯科衛生士、看護師の方の数は会場と配信を合わせてなんと約900人!
歯科タウンは、セミナーの様子を会場で取材しました。今回は歯科タウンのマスコットキャラクター「イーハくん」も一緒です!未来におけるオーラルケアの重要性と歯科医療の役割について、共に掘り下げていきます。
未来の歯医者さんは地域コミュニティの中心に?
専門家が語る!100年時代の新しい健康づくり
基調講演の特別ディスカッション「各領域の最先端研究者が考える、100年時代の口腔と健康の在り方」では、慶応大学医学部の早野元詞先生が、「老化のない未来は実現できるのか?」をテーマに最先端のエイジング研究について講演。老化とは後天的な要因が大きく、コントロールすることで健康寿命を延ばすことができると話しました。血液検査から年齢を測る検査を例に挙げ、今後は検査結果で示される生物学的年齢を基に自分に合った医療や食品を選ぶ時代がくるだろうと予測する早野先生。歯科医院も、健康チェックのために唾液を採取する拠点としての役割を担うのでは?との考えを述べられました。
続いて、東北大学大学院歯学研究科の江草宏先生は、「人生100年時代の口腔と健康のありかた」をテーマに、口腔と全身の健康のつながりについて講演しました。全身の健康管理において、身体の入口となる口腔のケアは非常に重要であること、歯を失った場合は補綴治療により死亡リスクの軽減が期待できることを話されました。また、遺伝素因や環境素因など発症リスクを基にした先制医療と、損なわれた機能を元通りに戻すための再生医療に触れ、リアルタイムで身体の情報を収集するウェアラブル端末を使った健康管理について紹介されました。
20年後は歯医者さんが地域の健康相談所になる可能性も
早野先生と江草先生の講演内容を踏まえ、株式会社サルタ・プレス代表取締役 西沢邦浩さん、特別ゲストとして登壇したタレントの関根麻里さんを交えたディスカッションが行われました。テーマは、「20年後の口腔と全身の健康は、どのような未来になっているか?」。
江草先生は、歯科と医療の連携がより強化され研究が進んでいくのではないか?と述べられました。実際に、身体の手術をする際に口腔内をクリーニングできれいにすることにより術後の回復が早まった事例もあり、今後の医科歯科連携強化が期待できそうです。
続いて、話題は「20年後、歯科医師・歯科衛生士はどういう役割であるべきか」という興味深いテーマへ。歯科医院が治療だけでなく、地域の皆さんが気軽に立ち寄れる”健康の相談所”として進化していく―そんな未来像が示されました。
特に注目を集めたのは、歯科医院を中心に地域全体で健康をサポートし合えるネットワークづくりのビジョン。まさに、”かかりつけの歯医者さん”が新しい形で地域の健康を支えていく構想です。
この日、パネリストとして参加した関根さんも、「私自身、子供の頃から半年に1回は歯医者さんに通っていたんです」と自身の経験を振り返り、「これからはより一層オーラルケアを大切にしていきたいですね」と、笑顔で語ってくれました。
ほんの少しの意識がフレイルを予防!
毎日プラス10分の運動とちょっと歯ごたえのある食事がポイント
早稲田大学スポーツ科学部の宮地元彦先生は「今より10分多く身体を動かす」だけで、加齢による衰えである「フレイル」を予防できると提言しました。
また、東京慈恵会医科大学附属病院栄養部の赤石先生、大阪歯科大学医療保健学部の糸田先生を交えたセッションで熱く語られたのは、食事の選び方について。年齢を重ねると柔らかい食事ばかりを選びがちですが、少し歯ごたえのある食材を選ぶことでお口の筋肉が鍛えられるだけでなく、栄養のバランスも整うため、フレイル予防に効果的だそうです。
脳科学の専門家がコミュニケーションのコツを伝授
人工知能の研究者であり、脳科学の専門家でもある黒川伊保子さんも登壇され、患者さんの行動変容を促すコミュニケーションのコツを科学的に解説されました。歯科医師や歯科衛生士の方を交えたトークセッションも開かれ、患者さんとの関係だけでなく、スタッフ間の良好な関係づくりにも役立つ、コミュニケーションの図り方についての興味深いお話も。患者さんも、歯医者さんや歯科衛生士さんも、みんなが気持ち良く過ごせる医院づくりのヒントにつながる、密度の濃いお話を伺うことができました。
お口のケアが未来の健康につながる
多分野の連携がお口と身体の健康をつくる
セミナーの最後には、ライオン歯科衛生研究所に所属する歯科衛生士さんたちによる、お口の未来についてのディスカッションが行われました。「みなさんが生涯を通じて健康な歯と口を保ち、そして体全体も健康に過ごせるようにサポートしていきたい」という熱い思いを語ってくれました。
また、これからの歯科医療についてのビジョンも示され、セルフケアとプロケア、支援者の連携の重要性が参加者の注目を集めました。
• セルフケア
一人ひとりが適切なケア方法を理解し、日々実践する
• プロケア
地域の歯科医院が専門的なケアを提供し、セルフケアのアドバイスを行う
• 栄養士、看護師、保健師などの支援者
セルフケアを行う個人とプロケアを提供する歯科医院をつなぎ、健康維持をサポートする
ライオン歯科衛生研究所の使命は、一生涯を通じて「予防歯科のゴールデンゾーン」を歩み、お口と全身の健康をサポートすること。お口と身体の健康を保つためには、お口の健康の専門家だけでなく、食や栄養、運動など、各分野の専門家との連携も重要になります。さまざまな領域と手を取り合いながら、予防歯科習慣の普及により一層取り組み、お口から全身の健康へ導いていきたいという目標が掲げられました。
治療から予防へ。歯科医療は今、大きな転換期に
会場には、口腔衛生の歴史を学べる貴重な資料が展示され、中には約100年前のオーラルケアに関する資料も。また、最新の研究成果をまとめたポスター発表や、新しいオーラルケアグッズやサービスの展示もあり、多くの参加者が足を止め、熱心に展示を見入っている姿が印象的でした。
治療から予防、お口の健康管理から全身の健康管理へ、歯科医療は大きな転換期を迎えています。人生100年時代といわれる今、歯医者さんは虫歯やお口のトラブルを治す場所ではなく、身体全体の健康をサポートする場所に変わるのかもしれません。
私たちもプラス10分の運動と歯ごたえのある食事、適切なオーラルケアで、今日からつながる未来をより健康なものに変えていきましょう!